
「ありがとう」
毎日の仕事で何気なく使っているこの言葉、皆さんはどのくらい意識して使っていますか?
忙しい看護の現場では、感謝の気持ちを伝える余裕がなかったり、つい当たり前と思って言わなかったりすることも多いですよね。
でも感謝を伝えないなんてもったいないです。
だって感謝すること・感謝されることはいいことがたくさんあるのですから。
今回はそんな感謝についてのお話です。
感謝の言葉の心理的効果
感謝の気持ちを表現することで、ストレスに強くなりモチベーションがアップすると言われているのをご存知ですか?
人は感謝することで脳内ではセロトニンやオキシトシン、ドーパミン、エンドルフィンといった「幸せホルモン」が盛んに分泌されます。
これらのホルモンには、ストレスを和らげ、心の安定感をもたらす働きがあります。
そして、感謝の気持ちを持つことは身体にも良い影響を与えます。
例えば、抗炎症作用や免疫力の向上が期待できるほか、血圧や心拍数を安定させ、血糖値のコントロールにも関与すると言われています。
さらに、最近の研究では、細胞の老化に関わる「テロメア」と呼ばれる部分の長さが、感謝を習慣にすることで保たれやすくなり、結果として健康寿命が延びる可能性も示唆されています。
つまり、「ありがとう」という気持ちは、心の健康だけでなく、体の健康にもつながる大切な習慣なのです。
さらに社会的な効能として、孤立感や孤独感の軽減、外向性の向上などの変化が起こります。
感謝することで、幸福感も高まり気分や身体、人間関係にポジティブな影響があるなんていいことばかりですね。
また、感謝は言う側だけでなく言われた側にも良い効果があります。
「ありがとう」と言われると嬉しいですよね。
それは「自分の行動が誰かの役に立った」という実感が得られるからです。
人は感謝されても、幸せホルモンの分泌が活発になり、幸福度が増加します。
さらに周りの人から肯定されることにより、帰属意識や社会的な繋がりを感じ、孤独感が減少します。
自分の貢献が認められると感じることで、日々のプレッシャーやストレスに対する対処能力が強化され、自尊心と自信の向上につながり、今後の仕事へのモチベーションを高める効果があります。
例えば、忙しい中で周りの人が一言「助かったよ、ありがとう」と声をかけてくれると、「また頑張ろう」と思えることはありませんか?
「ありがとう」と言われると、「こちらこそありがとう」と相手に対して感謝の気持ちを自然と持つようになります。
お互いに感謝の気持ちが芽生えると、相手との間により強い絆が生まれ、信頼関係が構築されます。
お互いに感謝して、感謝されることで、みんなが幸福になれるということです。
考えてみてください。
みんなが妬み合ったり、足を引っ張り合ったりする社会と、「ありがとう」を素直に伝えられる社会ならどちらがいいですか?
きっと後者の方が多いと思います。
だって、その方がずっと過ごしやすくてお互いに生きやすい社会になるからです。
みんなが感謝し合い、肯定的に認め合っているところでは、誰もが委縮することなく、自分の能力を最大限発揮できると思いませんか?
「ありがとう」の言葉にはお互いの気持ちを循環させ、職場全体の空気を良くしていく力があるのです。
そんな「ありがとう」という言葉には、相手を元気づけるだけでなく、自分自身の心を軽くする力もあるのです。
私自身、何気ない「ありがとう」で救われた経験があるので紹介します。
ある日、業務に追われて疲れていた私に、後輩が「〇〇さんがいつも気にかけてくれるおかげで助かっています」と微笑んで言ってくれました。
その一言で、それまでの疲れが嘘のように消えたのです。
このような瞬間を増やしていけたら、職場全体がもっと明るく、そして働きやすくなるのではないでしょうか。
職場で感謝の言葉を伝えることの効果や、それが生むポジティブな影響、そして感謝の習慣をつくる方法について一緒に考えてみましょう。
●医療現場でのシーン
1.患者さん、ご家族との関係を深める「ありがとう」
例えば、患者さんに「検査、大変でしたね。協力してくれてありがとう」と伝えると、お互いに安心感や信頼感が生まれます。
言葉は治療やケアの一部といっても過言ではないのかもしれません。
患者さんにケアに協力してもらえることや、こちらの指示を理解してもらえること自体に感謝を伝えることは、双方の関係をより良いものにしてくれるのです。
2.同僚との関係性を強める「ありがとう」
例えば、「〇〇さんが患者さんに声かけしてくれたおかげで、あの場が落ち着きました」といった具体的な感謝の言葉を言われると、「自分の仕事が役に立った」と感じられて嬉しくなりますよね。
心理学者のアドラーの言葉に「貢献感こそが幸せである」とあります。
つまり、私たちは人から感謝されることで「誰かの役に立っている」ことを実感して、「自分には価値がある」と思えたときに幸せを得ることができるのです。
3.リーダーが伝える「ありがとう」
リーダーや先輩が「ありがとう」を口にすることは、チーム全体のモチベーションアップに直結します。
「上の立場だから言う必要はない」「仕事場で部下に優しく接したら、それに付け込まれるのではないか?」と思うのではなく、リーダーが伝える感謝の言葉だからこそコミュニケーションがスムーズになり、職場全体の雰囲気を良くする重要な要素になります。
●感謝を伝える習慣の作り方
1.朝のミーティングや終業時に感謝を共有する場をつくる
誰かに「ありがとう」と伝える場があれば、感謝の習慣が作れるきっかけになります。
第三者にも感謝の内容を知ってもらえるように「ありがとう」を伝えることには、良い効果があります。
例えば、職場の朝礼中に「あの時のあなたの迅速な行動に助けられました。感謝します」と気持ちを伝えることで、感謝を受け取った人は、周りの人たちにも自分の頑張りを知ってもらえたとモチベーションも高まります。
また、周りの人も「自分の頑張りがみんなに伝わる」と思うと、仕事へのモチベーションが向上しませんか?
このような場で感謝を伝えることは、全員にポジティブな影響を与え、気持ちが前向きに明るくなったり、人とのつながりが深まったり、安心感が生まれ心の健康にも良い影響があります。
「やって当たり前だ」といったような雰囲気があると、自身の努力や貢献が認められないと感じます。
その結果、モチベーションや仕事への意欲が低下してしまう可能性があります。
また、感謝のない環境ではコミュニケーション不足になりやすく、不明点を気軽に聞きづらい・会議で発言できない・挑戦できないなど、心理的安全性が低くなります。
その結果として生産性が低下し、業績が悪化する恐れがあります。
2.感謝カードやノートを使う
小さなカードやノートに感謝の気持ちを書いて渡す方法も効果的です。
実際に私もある朝ロッカーにお菓子とメモが貼り付けられていました。
小さなメモには
「昨日は〇〇さんの対応助かりました、ありがとう。」と。
直接の言葉も嬉しいですが、形に残るメモだと何度でも読み返せてその度に心がじんわり温かくなりました。
そのまま手帳に貼って、今でもお守りとして大切にしています。
私の周りにも同じようにメモを保管している同僚もいました。
素敵なメモをもらってから私も真似をして、何かあの時助かったと思うことや感謝できたことはお菓子とメモを使って伝える方法を使わせてもらっています。
素敵な方法を教えてもらえて感謝です。
先輩、同僚、後輩からどんな形でもいいのでありがとうの気持ちを伝え合えると「また頑張ろう」と言う気持ちになりますよね。
いつも感謝の気持ちを表現している人は周囲からの好感度が高く、「この人に何かしてあげたい」と思わせるため人から助けてもらったり、チャンスの機会を与えてもらいやすくなるという嬉しい効果も。
感謝の言葉は共感と相互理解を促進し、オープンなコミュニケーションへと導いてくれるのです。
3.具体的な感謝のフレーズを心がける
「ありがとう」の一言だけでなく、「〇〇があったから助かりました」と相手の行動を具体的に伝えることで、感謝の気持ちがより伝わります。
感謝の気持ちを伝えるポイントとして、相手の目を見ながら、笑顔で明るい声で語尾をはっきりと伝えましょう。
また別れ際にもその話題を出して「本当にありがとう」と伝えると、感謝の余韻が残ります。
4.「自分」に目を向ける
日頃から周囲の人に感謝を伝えていますか?
相手の良いところを考えたことがありますか?
感謝するためには、相手をよく知り、見ていないとできません。
忙しい日々の中で、つい「相手が〇〇してくれない」「環境が悪い」と外側のせいにしてしまうこともあります。
でも、まずは自分がどんな風に周囲と関わっているのか、一度振り返ってみましょう。
ストレスを多く抱えていると、どうしても「ありがとう」よりも「なんでこうなるの?」「自分ばっかり」「大変すぎる・・」と、怒りや不安を感じることのほうが多くなりがちです。
さらに、物や情報に溢れた時代の中で、私たちは「あることが当たり前」「してもらえることが普通」と感じてしまい、感謝する気持ちが鈍くなってしまうこともありそうです。
でも、感謝の心はただ「ありがとう」と言うだけで生まれるものではありません。
大切なのは、「自分がどんな気持ちで感謝を伝えたいのか」「なぜありがとうと言いたいのか」を意識してみることです。
感謝の背景を知ろうとし、意味を持って伝えてみることで、その言葉はただの挨拶ではなくなります。
相手への気持ちがより深まり、同時に自分の心も満たされるようになるのです。
感謝とは、ただ言葉にするだけのものではなく、心の持ちようと考えています。
だからこそ、ネガティブな気持ちのままでは、なかなか湧いてこないもの。
日々の小さな出来事の中で「ありがたいな」「助かったな」と思えることを探す習慣をつけると、自然と怒りや不安を手放すことにもつながっていきます。
そうすることで、心が穏やかになり、ストレスの軽減にもなります。
実際に、感謝の気持ちはうつ病の発症リスクを下げるという研究データもあり、心のバランスを整える大切な要素とされています。
心が健康になれば、体の免疫力も自然とアップし、結果として心身の健康につながります。
つまり、感謝は単なるマナーではなく、自分自身を守るための習慣でもあるのです。
5.「すみません」より「ありがとう」
仕事を手伝ってもらったとき、つい「すみません」と言ってしまいませんか?
「すみません」は謝罪や断りにも使える便利な言葉ですが、お礼の場面では「ありがとう」を使うほうが、よりポジティブな空気感を生み出します。
例えば、「すみません」と言われると、相手は「迷惑だったかな?」と感じることもあります。でも「ありがとう」と伝えられると、シンプルに「役に立ててよかった」「喜んでもらえたんだな」と嬉しくなるものです。
この小さな言葉の違いが、職場の雰囲気にも影響を与えます。「すみません」よりも「ありがとう」が飛び交う環境では、より前向きなコミュニケーションが生まれ、職場全体が温かい雰囲気になります。
では職場全体で感謝を伝える習慣が根付くと、どのような変化が起きるのでしょうか?
①雰囲気の改善
小さな感謝の言葉が増えると、職場全体が明るくなり、スタッフ間の信頼感が深まります。
②モチベーションの向上
自分の行動が認められることで、仕事に対するやる気が高まります。
ストレスの軽減:感謝の言葉を受け取ることで、疲れやストレスが和らぐことが研究でも示されています。
③心理的安全性の向上
成果が認められ、感謝される環境では安心して仕事に集中できるので、仕事の効率や業績向上につながります。
このように感謝が生み出すポジティブな影響はさまざまあるのです。
【最後に】
感謝の言葉は、ただの挨拶ではなく、相手と自分の心をつなぐ大切なコミュニケーションツールです。
小さいころから感謝の気持ちを持つように教えられていたはずなのに、最近感謝した記憶がない・・なんて人も多いのではないでしょうか。
大人になれば立場やプライド、人間関係などでうまく実践できないのが実状なのかもしれません。
それでもやはり「ありがとう」と言ってもらえると嬉しいし、誰かに素直に「ありがとう」が言える人は素敵です。
看護の現場の中では忙しく時には心の余裕がなくなることもありますが、一人ひとりが少しずつ「ありがとう」の言葉を増やしていくことで、職場の雰囲気が変わり、働く私たち自身の気持ちも穏やかになれるはずです。
今日から、ほんの少しでもいいので、意識して「ありがとう」を伝えてみませんか?
その一言が、あなた自身と周りの人たちを温かくし私たちはもっと安心して笑顔に働ける環境をつくれるようになると感じています。
いつもご愛読いただきありがとうございます。