
「しごと・レトリバー」は、看護・介護・薬剤師など現場で働く方々に向けて、“リアルな転職・キャリア”の情報をお届けするメディアです。
今回お話を伺ったのは、総合病院前の大手チェーン薬局でキャリアを始め、その後地元の薬局へ転じ、現在は管理薬剤師として現場運営の最前線に立つ薬剤師のポンさん。
新人期に多様な症例を浴びるように経験し、地元へ戻ってからは患者さんやチームに近い距離で意思決定に関わる。
そんなポンさんのキャリアは、「働きやすさ」を条件の良し悪しだけで測らず、業務の波・役割の重さ・組織の意思決定距離まで含めて立体的に捉える視点を教えてくれます。
求人票の「週休2/3日制」はどう読む?
退職と転職のタイミングは?
給与明細では“基本給:手当”のどこを見ればいい?
そして、管理薬剤師として背負う責任の現実とは。
表面的な“良さそう”に流されないための、現場からの言葉をまとめてお届けします。
東北配属で身についた“土台”は何か
まずは新卒1年目、総合病院前局での経験が今の基礎力にどうつながっているのかをうかがいました。
しごレト編集部新卒で総合病院前の大手チェーン局に配属。1年目の経験は今の土台になっていますか?
ポンさん総合病院前だったので多様な患者さんを受け付ける経験ができました。1年目でこういう経験ができたのは今でもベースで、どこに配属されても知識面で後れを取ることはほとんどないですね。
しごレト編集部若手時代の学び方で印象的だったことは?
ポンさん多様な科の方の対応をしたことですね。いまの会社では、当時ほど多様な症例に触れることはほとんどありませんので。
地元へ転じた理由:知識がついたからこそ見えた“言葉と文化”
次に、地元へ転じた背景と、その時に意識したことを深掘りしました。
しごレト編集部地元へ転じた背景をうかがえますか?
ポンさん家族の関係もありますが、言葉の壁が大きかったです。電話でのやり取りでも方言が理解できず苦労しましたし、地域の習慣もあって外部の人間として一線を画される感覚もありました。
しごレト編集部実力がついてきた時期と重なった?
ポンさんそうですね。知識がついてきた段階で「地元ならもっといい仕事ができる」と思うようになりました。
言葉や文化の“通じやすさ”って、思っている以上にケアの質に影響しますよね。
「知識がついたからこそ、地元で活かせる」と感じた流れに、等身大のリアルを感じました。無理なく力を発揮できる場所を“選び直す”のも立派な戦略だと思います。
転職後に判明した施設在宅の“夕方の山”
転職の前後で、条件の見方や「入ってから分かったこと」はどこにあったのか——具体の時間帯の“波”も含めて聞きました。
しごレト編集部転職前に重視していた条件と、入ってから見えてきたポイントは?
ポンさん当時は給与交渉ができるかを重視していました。入ってからわかったのは施設在宅の業務量です。夕方5〜6時に調整が一気に来て、そこから2〜3時間調剤が続くこともあります。
しごレト編集部事前に把握するコツはありますか?
ポンさん見学で“機械の搬入の様子”を見るのは大事です。物量が多く物々しいところは人手不足の可能性もあります。日常業務の流れを実際に見せてもらうのが一番ですね。
「夕方に一気に山が来る」—在宅や施設対応のあるあるですね。
面接の“言葉”だけでなく、見学で“動き”を見る視点はとても実践的。搬入の量や、棚の回転、スタッフの表情…小さな手がかりが働きやすさのヒントになるかもしれないですね。
管理薬剤師の現実:やっていなくても“最後は自分”
役割が上がるほど、非定量の仕事が増える。日々の緊張感について、実例ベースでお聞きしました。
しごレト編集部管理薬剤師になって、想定外だった“修羅場”は?
ポンさん自分がやっていないことでも責任を取る場面があります。たとえば休みの日に準備された薬の内容に誤りがあり、トラブル対応が必要になったことがありました。定期的に起きるレベルの話です。
しごレト編集部“最後は自分”の緊張感ですね。
ポンさんはい。一次対応はもちろん、再発防止まで管理責任として求められます。
「自分がやっていなくても、最後は自分が受け止める」—重さはあるけれど、現場を守る背中の温度も感じました。
仕組みで減らせるリスクと、人のケアで支える安心。どちらもチームで育てていけると心強いですね。
市場価値の見方:同業内は伸ばしやすい/異業種転換は“給与リセット”に注意
「転職しても年収が下がる」ケースはなぜ起きるのか。ポジションとテーブルの関係性を確認しました。
しごレト編集部薬剤師としての市場価値は、どんな軸で見れば良いでしょう?
ポンさん調剤→調剤と、調剤→病院・企業では違います。異なる職種に移ると給料がリセットされることが多い。病院は基本的に給料が低い傾向があります。キャリアアップを目指すなら、同じタイプの職種内での転職が有利ですね。
「伸ばしたい軸はどこか?」を先に決めると、迷いが減りますね。
同業内で深めていく強さも、舞台を変えて広げる選択も、どちらを選ぶのかその基準を知っておくのは大切ですね。
転職がもたらした変化:裁量が近づく、中小の意思決定距離
職場の規模によって意思決定のスピードはどう変わるのか。日々の手応えを聞きました。
しごレト編集部転職して、日々の実感で変わったことは?
ポンさんやりたいことができるようになりました。大手から中小に移ったことで上層との距離が近く、自分の考えが通りやすくなりました。大手ではトップダウンで情報が降りてくるだけでしたが、いまは意見が反映されやすいです。
トップダウンならではの安心感も、距離の近さが生むスピード感も、どちらも魅力ではありますがやはり距離が遠いと伝わらないもどかしさは辛いですからね。
“発信”は本業の延長:偽らず、プレッシャーを良い緊張に
ブログやSNS、登壇。発信と本業の関係性について、率直なスタンスをうかがいました。
しごレト編集部薬剤師としての自分と、発信者としての自分。ギャップは?
ポンさんあまりギャップは感じていません。発信も本業の延長だと考えています。勉強して知ったことを記事にして、必要な人に届けるのが良い。偽って発信はしません。見られているプレッシャーがあるからこそ、内容を落とし込むようにしています。
本業で学んだことを、そのまま丁寧に言葉へ。背伸びしない発信だから、届く人がいるのだと思います。
私たちも情報発信する中で適度なプレッシャーを糧に伸ばして行かなければと思いました。
これからのキャリア:地元に根ざす×全国に届ける
地元密着と全国発信。両輪で描く今後のキャリアを聞きました。
しごレト編集部今後の働き方は、どう描いていますか?
ポンさん今の仕事(本業も副業も)は好きなので続けたいです。本業は地元に密着して、副業ではSNSで全国に発信していきたい。登壇や執筆も好きなので、働き方について広く話せる機会を持ちたい。半分遊びの感覚で続けています。
求人の読み方・動き方:タイミングと内訳、そして“良い話だけ”は疑う
応募・退職の順番、そして給与票のどこを見るか。求人ページの甘い言葉に引っ張られないための視点を最後に整理しました。
しごレト編集部転職を考える薬剤師へ、実務的なアドバイスをお願いします。
ポンさんボーナス前から動いて、もらってから退職が一番良いと思います。給与は“基本給と手当の比率”を見てください。賞与は基本給に反映されます。同じ手取りでも、基本給が高い方が有利です。良いことばかり言う企業は信用しないですね。
しごレト編集部最近よく見る「週休3日制」は、どう解釈すべきでしょう?
ポンさん『週休2日制』『週休3日制』を掲げる職場はあります。嘘ではない可能性もあるのですが、若手が休めるということは、その分、上に負荷がかかっているということです。あなたたちが10年経ったらどうなるのか、誰が役割を担うのかまで想像した方がいい。
新人期に広く症例に触れた土台、地元での“通じやすさ”を活かす選択、そして管理薬剤師として「自分がやっていなくても最後は自分が受け止める」責任。ポンさんの語りからは、働きやすさが“条件の足し算”ではなく、“現場の手触り”で確かめるものだと伝わってきました。
「ボーナス前から動いて、もらってから退職」
「給与は基本給と手当の比率を見る」
「良い話ばかりの求人は一歩引いて観察」
どれも今日から実践できる視点です。加えて、週休3日など魅力的に見える制度も、世代や役割で負荷の配分が変わることまで想像しておく。未来の自分を守るための“予習”ですね。
発信は本業の延長。背伸びせず、学んだことを丁寧に言葉へ――そんなポンさんの姿勢は、私たち読者にとっても心強い灯りです。
職場の規模、チームの距離感、業務の波、責任の重さ。どれも“一人ひとりの最適”は違います。今日の気づきが、あなたの次の一歩を少し軽くできますように。
プロフィール
ポンさん(薬剤師/ポンマガジン運営)
新卒で大手チェーンの総合病院前局に配属(在籍:1年)。のちに地元の薬局へ転職し、管理薬剤師として現在も勤務。現場実務のかたわら、ブログ/SNS/登壇で薬剤師のキャリアと働き方を発信。
ブログ:ポンマガジン
Instagram:ponnenmaru6
X(旧Twitter):@ponnenmaru
キャリア初期に症例の“幅”と“量”を浴びる体験は、その後の配属替えでも効く“基礎体力”。「まず広く触れる→あとで深める」は、焦らず伸ばせる定石ですね。