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終末期看護計画の記載例を徹底解説:家族ケアとQOL向上の秘訣

終末期看護に携わる看護師の皆さん、日々の業務の中で「患者さんとその家族が最期の時間をどのように過ごすべきか悩んだことはありませんか?」

また、「患者さんのQOLをどのように向上させるか考えたことはありませんか?」。

終末期看護は、患者さんが人生の最終段階を迎える際に、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を和らげ、患者さんとその家族の生活の質を向上させることを目的としています。

本記事では、終末期看護計画の具体的な記載例を通じて、家族ケアとQOL向上の秘訣を詳しく解説します。看護師としての役割を再確認し、より良いケアを提供するためのヒントを見つけてください!

 

終末期の定義。どこからが終末期?

終末期の患者さんと家族のイラスト

終末期とは、医療の観点から見て、病気の回復が期待できず、余命が限られていると判断される時期のことを指します。

 


終末期の定義

「終末期」とは、以下の三つの条件を満たす場合を言います。

  1. 医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
  2. 患者さんが意識や判断力を失った場合を除き、患者さん・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
  3. 患者さん・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること

社団法人 全日本病院協会 終末期医療に関するガイドライン策定検討会

社団法人 全日本病院協会 終末期医療に関するガイドライン策定検討会https://www.ajha.or.jp/topics/info/pdf/2009/090618.pdf


この時期は、患者さんが自分らしく、できるだけ穏やかに過ごせるようにサポートすることが大切です。

また、他の疾患より、患者さん・家族の参加の促しやケアも必要になります。

 

死への受容の段階

死を宣告されすぐに受容できる人は、極まれでしょう。

死を受け入れるまで様々な感情が発生します。

今一度、段階をおさらいしましょう。

 

死への受容の段階(精神的変化)

死への受容の段階は、スイス生まれの精神科医エリザベス・キューブラー=ロスによって提唱されたモデルで、死にゆく人の心理的変化を5つの段階で捉えています。

このモデルは、患者さんが死を受け入れるまでの心のプロセスを理解するためのものです。

以下に、その5つの段階を説明しますね。

死への受容段階

以上の段階を踏み、やっと心の平安を得て、静かに過ごすことができるようになります。

 

このモデルは、必ずしもすべての人がこの順序で段階を経験するわけではなく、個人によって異なるプロセスをたどることがあります。

また、これらの段階を行きつ戻りつすることもありますが、患者さんの心理的ニーズを理解し、適切に対応するための指針として広く用いられています。

各項目の詳細は下記をご覧ください。

死の受容過程のフローチャート

身体的な変化

終末期の身体的変化は、生命活動が徐々に低下していくことに伴い、さまざまな形で現れます。

終末期の身体的変化の図

 

終末期看護とはどんなこと?

終末期看護とは、患者さんが人生の最終段階を迎える際に、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を緩和し、患者さんとその家族が穏やかで尊厳のある時間を過ごせるよう支援するケアを指します。

治療による回復が難しい状況で、患者さんのQOLを最大限に高めることを目的としています。

ターミナルケア

ターミナルケアとは、患者さんが余命わずかと診断された終末期において、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を緩和し、患者さんとその家族が穏やかで尊厳のある最期を迎えられるよう支援する医療・看護のことを指します。

ターミナルケアは、治療による病気の回復が難しいと判断された患者さんに対して行われるケアであり、延命を目的とするのではなく、患者さんのQOLを向上させることを目的としています。

 

ケアの目的

身体的な痛みや不快感を緩和するだけでなく、精神的な不安や恐怖を和らげ、患者さんが自分らしく穏やかに過ごせるよう支援することが中心です。また、家族への心理的サポートも重要な要素です。

ターミナルケアの特徴

  • 全人的ケア

ターミナルケアは、患者さんの身体的苦痛だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな側面にも配慮した「全人的ケア」を提供します。

 

  • 患者さんと家族の意思を尊重

ケアの内容や場所(病院、自宅、介護施設など)は、患者さんと家族の希望に基づいて決定されます。

 

緩和ケアとの関係

ターミナルケアは緩和ケアの一部と考えられますが、緩和ケアは病気の進行度に関係なく行われるのに対し、ターミナルケアは終末期に特化したケアである点が異なります。

ケアの主な内容

緩和ケアの主な内容

ターミナルケアは、患者さんと家族が最期の時間を穏やかに過ごせるよう、多職種が連携して支援する包括的なケアです。

 

緩和ケア

緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に直面している患者さんとその家族に対し、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛を和らげ、QOLを向上させることを目的とした包括的なケアです。

このケアは、病気の診断時から治療と並行して行われるもので、患者さんが自分らしく生きることを支援します。

 

以下にターミナルケアと緩和ケアの違いを表にしてみました。

項目 ターミナルケア 緩和ケア
開始時期 回復の見込みがなく終末期に入った段階で行われる 病気の診断時から治療と並行して開始される
目的 延命治療を行わず、患者さんが安らかに最期を迎えられるようにサポートする 身体的・精神的苦痛を緩和し、患者さんが自分らしい生活を送れるようサポートする
対象者 疾患の種類を問わず、終末期にある患者さん全般 癌患者を中心に、生命を脅かす疾患を抱える患者さん全般
治療との関係 延命治療を中止し、苦痛緩和に専念する 治療と並行して行われる
ケアの焦点 「どう最期を迎えるか」に重点を置く 「どう生きるか」に重点を置く

QOLの維持について

終末期におけるQOLの維持は、患者さんが人生の最終段階を自分らしく、できる限り快適に過ごせるよう支援することを目的としています。

終末期は、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛が複雑に絡み合う時期であり、これらの苦痛を緩和し、患者さんの尊厳を守ることが重要です。

QOL維持の重要性を確認しましょう。

 

患者さんの尊厳を守る

終末期の患者さんにとって、身体的な苦痛の軽減だけでなく、自分らしさを保ちながら最期を迎えることが重要です。

終末期では、身体的な痛みだけでなく、精神的な不安や孤独感、スピリチュアルな悩みがQOLに大きく影響します。

これらを包括的にケアすることで、患者さんが穏やかに過ごせる環境を整えることができます。

 

QOL維持のための具体的な取り組み

以下の4つの側面に焦点を当てたケアが、終末期におけるQOL維持において重要です。

  1. 身体的ケア
  1. 精神的ケア
  1. 社会的ケア
  1. スピリチュアルケア

終末期におけるQOL維持の課題

  • 患者さんの価値観の多様性

終末期のケアは、患者さん一人ひとりの価値観や希望に基づいて行う必要がありますが、それを正確に把握することは容易ではありません。

しっかりとご本人の意向や家族からのヒアリングをして求めるケアを行うようにしましょう。

  • 家族の負担

家族が患者さんを支える中で、心理的・身体的負担が増大することがあります。

家族への支援もQOL維持の一環として重要です!

 

EOLとは

EOL(End of Life)とは、人生の最終段階、すなわち「終末期」を指す言葉です。

医療や介護の分野では、患者さんが回復の見込みがなく、生命の終わりが近づいている状態を指します。

この段階では、延命治療を行うかどうか、患者さんの尊厳を守りながらどのように最期を迎えるかが重要なテーマとなります。

EOLケアは、患者さんが可能な限り快適で尊厳を保ちながら最期を迎えられるよう、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな側面に配慮した包括的なケアを提供することを目的としています。

これには、痛みや苦痛の緩和、患者さんの希望の尊重、家族への支援などが含まれます。

 

QOLとEOLの違い

QOLとEOLは、医療や介護の文脈で密接に関連していますが、焦点と目的が異なります。

項目 QOL EOL
意味 生活全体の質を評価する概念で、身体的精神的、社会的、スピリチュアルな幸福感にゃ満足感を含む 人生の最終段階(終末期)を指し、患者さんが最期をどのように迎えるかに焦点を当てる概念
対象期間 人生全般を対象とし、健康な時期から病気の治療中、終末期まで幅広く適応される 人生の終末期(回復も見込みがなく、生命の終わりが近い時期)
目的 患者さんが身体的、精神的、社会的に充実した生活を送れるように支援し、幸福感を高めることを目指す 患者さんが尊厳を保ちながら、苦痛を最小限に抑え、穏やかに最期を迎えられるよう支援する
ケアの内容 病気や障害があっても、患者さんが自分らしい生活を送れるよう、身体的・精神的ケアや社会的支援を提供する 痛みや苦痛の緩和、スピリチュアルケア、家族への支援、延命治療の選択に関する意思決定のサポートなどを行う

終末期における精神的なケアで看護師ができること

 

終末期における精神的なケアは、患者さんやその家族が抱える不安や恐怖、孤独感、抑うつなどの精神的苦痛を軽減し、穏やかな心の状態で最期を迎えられるよう支援する重要な役割を担います。

看護師は患者さんに最も近い存在として、以下のような具体的なケアを提供することが求められます。

 

終末期における精神的なケアで看護師ができること

 

終末期における精神的なケアは、患者さんやその家族が抱える不安や恐怖、孤独感、抑うつなどの精神的苦痛を軽減し、穏やかな心の状態で最期を迎えられるよう支援する重要な役割を担います。

 

看護師は患者さんに最も近い存在として、以下のような具体的なケアを提供することが求められます。

 

  • 精神的なケア

患者さんが抱える死への恐怖や不安を軽減し、安心感を与えられるようにしましょう。

安心感を得ることで、自分の人生を振り返り、意味や価値を見出せることに繋がります。

また家族も精神的にも、身体的にも疲弊しているので、家族を含めた包括的ケアが求められます。

 

  • 看護師自身のケア

忘れがちですが、精神的ケアを提供する看護師自身も、患者さんや家族の感情に影響を受けることがあります。

私も数回ですが、泣いたことがあります。

看護師が適切にストレスを管理し、心身の健康を保つことも重要です。

 

終末期看護計画の具体的な立案方法

患者さんが人生の最終段階を迎える終末期では、看護師として「どのように寄り添い、支えられるか」がとても大切なテーマとなります。

この時期のケアは、患者さんやご家族が抱える身体的・精神的な苦痛を和らげ、残された時間を少しでも穏やかに過ごしていただけるよう支援することが目的です。

終末期の看護計画を立案する際には、患者さん一人ひとりの価値観や希望を尊重しながら、具体的で実現可能な目標を設定することが求められます。

訪問看護を受ける患者さんのイラスト

看護計画のポイント

終末期看護における看護計画は、患者さん一人ひとりの状態や希望に基づき、適切なケアを提供するための具体的な指針となります。計画を立てる際には、以下の点が重要です:

  • 患者さんの価値観や希望を尊重する
    患者さんが「どのように最期を迎えたいか」を中心に考え、ケア内容を調整します。
  • 家族との連携
    家族の心理的負担を軽減し、患者さんと家族が共に過ごす時間を大切にする支援を行います。
  • 多職種チームとの協働
    医師、ソーシャルワーカー、介護職などと連携し、包括的なケアを提供します。

アセスメント(現状把握)

患者さんの身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな状態を観察し、以下の情報を収集します:

  • 身体的苦痛(疼痛、呼吸困難、倦怠感など)
  • 精神的苦痛(不安、抑うつ、孤独感など)
  • 社会的背景(家族関係、経済的状況など)
  • スピリチュアルなニーズ(人生の意味、信念など)

看護診断と優先順位の設定

患者さんの状態に基づき、解決すべき問題を明確化します。

例)

  • 疼痛管理が最優先の場合、適切な薬物療法を計画する。
  • 精神的苦痛が強い場合、傾聴や心理的サポートを重視する。

目標の設定

患者さんの状態や希望に応じて、具体的かつ現実的な目標を設定します。

例)

  • 「痛みを10段階中3以下に抑える」
  • 「家族と穏やかに過ごす時間を確保する」

ケアプランの作成

看護計画は、以下の3つの要素を含むことが好ましいです。

  • 観察計画:患者さんの状態を定期的にモニタリング(例:疼痛スケールの記録)。
  • 援助計画:具体的なケア内容(例:体位変換、清潔ケア、呼吸補助)。
  • 教育計画:患者さんや家族への情報提供(例:緩和ケアの説明、服薬指導)。

計画の実施と評価

計画を実施した後、患者さんの状態や反応を評価し、必要に応じて計画を修正します。終末期では状態が急変することも多いため、柔軟な対応が求められます。

終末期看護ケアの具体例

身体的ケア

  • 疼痛管理(モルヒネや鎮痛薬の使用)
  • 呼吸困難への対応(酸素療法、体位調整)
  • 清潔ケア(口腔ケア、皮膚ケア)

精神的ケア

  • 傾聴や共感を通じた不安の軽減
  • リラクゼーション法の導入(音楽療法など)

社会的ケア

  • 家族とのコミュニケーション支援
  • 経済的・社会的資源の活用(ソーシャルワーカーとの連携)

スピリチュアルケア

  • 宗教的・文化的背景を尊重した支援
  • 人生の意味や価値観についての対話

 

終末期看護計画の課題

  • 患者さんと家族の意思の不一致:患者さんと家族の希望が異なる場合、調整が必要です。
  • 急変への対応:終末期では状態が急激に変化することが多く、計画の柔軟性が求められます。
  • 看護師の精神的負担:看護師自身のメンタルケアも重要です。

 

終末期看護における看護計画は、患者さんと家族の希望を中心に据え、多職種と連携しながら柔軟に対応することが求められます。患者さんが「その人らしく」最期を迎えられるよう、看護師としての役割を果たすことが重要です。

 

終末期看護計画の立案例

終末期看護において、患者さんがその人らしく穏やかな最期を迎えられるよう支援することは、看護師にとって重要な役割です。

看護計画を立案する際には、患者さんの身体的・精神的な苦痛を和らげるだけでなく、価値観や人生観を尊重し、家族との時間を大切にする包括的なケアが求められます。

以下に3つの具体例を作成してみましたので紹介します。

看護計画の立案。看護師カンファレンスのイラスト

病院での場合

 


患者さん設定

  • 患者さん情報: 70歳男性、末期の肺がん(ステージIV)。余命は1~2か月と診断されている。
  • 主訴: 呼吸困難、胸部痛、全身倦怠感。
  • 精神状態: 死への不安と抑うつ感が強い。
  • 家族構成: 妻(68歳)と長男(40歳)が主な介護者。家族は患者さんの死を受け入れつつあるが、精神的負担が大きい。
  • 希望: 苦痛を最小限に抑え、家族と穏やかに過ごしたい。
  • 入院目的: 痛みや呼吸困難の緩和、家族との時間を確保するためのサポート。

 

  1. 看護問題の抽出
  • 身体的問題: 呼吸困難、胸部痛、全身倦怠感。
  • 精神的問題: 死への不安、抑うつ感。
  • 社会的問題: 家族の精神的負担、患者さんと家族のコミュニケーション不足。
  • スピリチュアルな問題: 人生の意味や死への恐怖。

 

  1. 看護目標の設定

短期目標:

  • 呼吸困難や胸部痛を緩和し、安静時の苦痛を軽減する。
  • 患者さんが安心感を持てるよう、心理的サポートを提供する。
  • 家族が患者さんと穏やかに過ごせる時間を確保する。

 

長期目標:

  • 患者さんが「その人らしい」最期を迎えられるよう支援する。
  • 家族が患者さんの死を受け入れ、後悔のない時間を過ごせるようサポートする。

 

  1. 看護計画の具体例

O-P

  • バイタルサイン
  • 疼痛スケール(NRS)を用いて痛みの程度
  • 全身状態(倦怠感、浮腫、皮膚状態)
  • 飲水摂取量
  • 食事摂取量
  • 排尿、排便数
  • 患者さんの表情や言動から不安や抑うつの兆候を把握
  • 患者さんが抱えるスピリチュアルな苦悩(死への恐怖、人生の意味など)
  • 家族の心理的負担
  • 家族間のコミュニケーション状況

T-P

  • 酸素療法(酸素マスクまたはカニューレ)を適切に管理し、呼吸困難を緩和。
  • 鎮痛薬(モルヒネなど)の投与を医師と連携して実施。
  • 安楽な姿勢を確保する。
  • 食べやすい食事形態に変更する。
  • 口腔ケアや清拭を行い、患者さんの清潔感を保つ。
  • 傾聴を通じて患者さんの不安や恐怖を受け止める。
  • 宗教的・文化的背景を尊重し、患者さんの信念に基づいたケアを提供。
  • リラクゼーション法(深呼吸、音楽療法など)を提案し、心理的安定を図る。
  • 必要に応じて心理士や精神科医と連携し、専門的なサポートを提供する。

 

E-P

  • 辛いとき、苦しいときが我慢せずにすぐに伝えてもらう
  • 家族に酸素療法や体位変換の方法を説明し、患者さんのケアに参加してもらう。
  • 家族に終末期ケアの重要性を説明し、患者さんとの時間を大切にするよう促す。

 

4.評価

  • 呼吸困難や疼痛が緩和され、患者さんが安静時に快適に過ごせているか。
  • 患者さんが不安や抑うつ感を軽減し、穏やかな表情を見せているか。
  • 家族が患者さんとの時間を大切にし、後悔のないケアができているか。
  • 患者さんが「その人らしい」最期を迎えられる環境が整っているか。

 

この看護計画は、患者さんと家族の希望を中心に据え、多職種と連携しながら柔軟に対応することを重視しています。患者さんが穏やかに最期を迎えられるよう、看護師としての役割を果たすことが重要です。

 

自宅で


患者さん設定

  • 患者さん情報: 78歳女性、末期の乳がん(骨転移あり)。余命は1~2か月と診断されている。
  • 主訴: 慢性的な疼痛、全身倦怠感、食欲不振。
  • 精神状態: 死への不安と孤独感が強いが、家族には心配をかけたくないと話す。
  • 家族構成: 長男(50歳)とその妻(48歳)が同居し、主な介護者。家族は患者さんの死を受け入れつつあるが、介護疲れが見られる。
  • 希望: 自宅で家族と穏やかに過ごし、最期を迎えたい。
  • 訪問看護の目的: 痛みの緩和、患者さんと家族の精神的サポート、在宅療養環境の整備。

 

看護計画の立案

1. 看護問題の抽出
  • 身体的問題: 慢性的な疼痛、全身倦怠感、食欲不振。
  • 精神的問題: 死への不安、孤独感。
  • 社会的問題: 家族の介護疲れ、患者さんと家族のコミュニケーション不足。
  • スピリチュアルな問題: 自分らしい最期を迎えたいという希望。
2. 看護目標の設定

短期目標:

  • 疼痛をコントロールし、安静時の苦痛を軽減する。
  • 患者さんが安心感を持てるよう、心理的サポートを提供する。
  • 家族が介護に対する不安を軽減し、患者さんと穏やかに過ごせる時間を確保する。

長期目標:

  • 患者さんが「自分らしい」最期を迎えられるよう支援する。
  • 家族が患者さんの死を受け入れ、後悔のない時間を過ごせるようサポートする。
3. 看護計画の具体例
O-P:
  • バイタルサイン
  • 疼痛の程度をNRS(Numerical Rating Scale)で記録し、変化を把握。
  • 食事摂取量
  • 飲水量
  • 全身状態(皮膚の状態、浮腫、脱水症状)
  • 患者さんの表情や言動から不安や孤独感の兆候の有無
  • 家族の介護負担や心理的ストレスの状態と有無
  • 家族間のコミュニケーション状況
  • 患者さんが抱えるスピリチュアルな苦悩(死への恐怖、自分らしさの喪失など)の状態

T-P

  • 鎮痛薬(モルヒネなど)の適切な投与を医師と連携して実施。
  • 温罨法や体位変換を行う
  • 食欲不振に対して、少量でも栄養価の高い食事を提案する。
  • 傾聴を通じて患者さんの不安や孤独感を受け止める。
  • リラクゼーション法(深呼吸、音楽療法など)を提案し、心理的安定を図る。
  • 必要に応じて心理士やスピリチュアルケア専門家を紹介。
  • ソーシャルワーカーと連携し、必要な社会資源(訪問介護、デイサービスなど)を紹介。

E-P

  • 家族に疼痛管理の方法(薬の使用、体位変換など)を説明する。
  • 食事介助のポイントや水分補給の重要性を指導する。
  • 家族に患者さんの心理状態について説明し、適切な声かけや接し方をアドバイスする。
  • 家族に終末期ケアの重要性を説明し、患者さんとの時間を大切にするよう促す。

 

4. 評価
  • 疼痛が適切にコントロールされ、患者さんが安静時に快適に過ごせているか。
  • 患者さんが不安や孤独感を軽減し、穏やかな表情を見せているか。
  • 家族が患者さんとの時間を大切にし、後悔のないケアができているか。
  • 患者さんが「自分らしい」最期を迎えられる環境が整っているか。

 

この看護計画は、患者さんと家族の希望を中心に据え、訪問看護師を含む多職種と連携しながら柔軟に対応することを重視しています。

 

小児の場合


患者さん設定

  • 患者さん情報: 10歳の男児、小児がん(神経芽腫)の末期。治療の効果が見込めず、緩和ケアに移行。
  • 主訴: 疼痛、倦怠感、食欲不振、呼吸困難。
  • 精神状態: 死への恐怖、不安、孤独感。家族も心理的負担を抱えている。
  • 家族構成: 両親と8歳の妹がいる。家族は患児の状態を受け入れつつあるが、妹の心理的ケアが不足している。
  • 希望: 苦痛を最小限にし、家族と穏やかに過ごしたい。

看護計画

1. 看護問題の抽出

  • 身体的問題:疼痛(がん性疼痛)、倦怠感や呼吸困難、食欲不振や栄養状態の悪化。
  • 精神的問題:死への恐怖、不安、孤独感。入院生活や病状悪化へのストレス。
  • 社会的問題:家族の心理的負担、きょうだいの孤立感や心理的ケア不足。
  • スピリチュアルな問題:死生観や人生の意味に対する苦悩。

2. 看護目標

短期目標:

  • 身体的苦痛を軽減し、安楽な状態を保つ。
  • 患児が安心して家族と過ごせる環境を整える。
  • 家族が患児のケアに積極的に関与できるよう支援する。

長期目標:

  • 患児と家族が残された時間を穏やかに過ごせるよう支援する。
  • 家族全体が死を受け入れ、心理的負担を軽減する。

3. 看護計画の具体例

O-P
  • バイタルサイン
  • 疼痛の程度を定期的に評価(痛みスケールを使用)。
  • 呼吸苦の有無
  • 食事摂取量
  • 飲水量
  • 排尿、排便の状態
  • 活気の有無
  • 患児の表情や言動から不安や恐怖の兆候の有無
  • 家族の心理的負担やストレスレベルきょうだいの心理的状態や行動の変化の有無

T-P

  • 疼痛管理のため、医師と連携して適切な鎮痛薬(モルヒネなど)を使用する。
  • 呼吸困難に対して酸素療法や体位調整を実施。
  • 食欲不振に対して、少量頻回の食事や嗜好に合わせた食事を提供する。
  • 年齢に応じたわかりやすい言葉で病状やケア内容を説明し、不安を軽減する
  • プレイセラピーやアートセラピーを活用し、患児の感情表現を促す。
  • 必要に応じて心理士やカウンセラーと連携し、専門的なサポートを提供する。
  • ソーシャルワーカーと連携し、経済的支援や地域資源の活用を提案する。
  • きょうだいが孤立感を抱かないよう、家族全体でのコミュニケーションを促進

E-P

  • 家族に疼痛管理の重要性と薬剤の使用方法を説明する。
  • 呼吸困難時の対応方法(体位調整、酸素療法の使用)を指導。
  • 家族に患児の心理状態について説明し、適切な声かけや接し方をアドバイスする。
  • きょうだいへの心理的ケアの重要性を伝え、具体的な対応方法を提案する。
  • 家族に利用可能な支援制度(医療費助成、相談窓口など)について情報提供。
  • きょうだいに対して、病気や治療について年齢に応じた説明を行う。

4. 評価

  • 患児の疼痛や呼吸困難が軽減し、安楽な状態が保たれているか。
  • 患児が家族と穏やかに過ごせているか。
  • 家族が患児のケアに積極的に関与し、心理的負担が軽減しているか。
  • 家族全体が死を受け入れ、穏やかに見送る準備ができているか。

 

終末期看護における倫理的配慮とコミュニケーション

人生の最終段階における看護は、患者さんやそのご家族にとって非常に大切な時間を支える役割を担っています。この時期には、患者さんがその人らしく過ごせるようにすることが何よりも重要です。

そのためには、身体的なケアだけでなく、心のケアやスピリチュアルな支援、そして家族との信頼関係を築くことが欠かせません。

終末期看護では、患者さんの尊厳を守りながら、意思を尊重し、安心感を提供することが求められます。

また、患者さんやご家族が抱える不安や葛藤に寄り添い、適切なコミュニケーションを通じて支えることが、看護師としての大切な役割です。

倫理的な配慮と温かな対話を通じて、患者さんとそのご家族が穏やかに過ごせるよう、私たちは全力でサポートする必要があります。

チーム医療のイラスト。

倫理的課題とその対処法

 

  1. 患者さんの意思と家族の希望が異なる場合

課題: 患者さん本人が延命治療を望まない一方で、家族が延命を希望するなど、意見が食い違うことがあります。

対処法:患者さんの意思を最優先に考え、丁寧に説明を繰り返します。

家族には患者さんの価値観や希望を共有し、理解を深めてもらうよう努めます。

必要に応じて、医療チームや倫理委員会と相談し、最善の方針を検討します。

 

  1. 延命治療の中止や差し控え

課題: 延命治療を続けるべきか、それとも中止すべきかの判断が難しい場合があります。

対処法:患者さんの病状や治療の効果、苦痛の程度を医学的に評価します。

患者さんや家族に治療の選択肢をわかりやすく説明し、納得のいく意思決定を支援します。

医療チーム全体で話し合い、患者さんにとって最善の利益を考えた対応を行います。

 

  1. 患者さんの意思が確認できない場合

課題: 患者さんが意思を伝えられない場合、どのような治療が最善か判断が難しいことがあります。

対処法:家族や関係者から患者さんの価値観やこれまでの希望を聞き取り、意思を推定します。

医療チームと家族が一体になって、患者さんの最善の方法を考え、慎重に方針を決定しましょう。

 

 

  1. 鎮静や疼痛管理に関するジレンマ

課題: 鎮静や強い鎮痛薬の使用が、患者さんの意識を低下させる可能性があるため、使用の是非が議論されることがあります。

対処法:患者さんの苦痛を最小限にすることを最優先に考えます。

鎮静の目的や効果、副作用について患者さんや家族に十分説明します。

医療チームで適切な薬剤や方法を選び、患者さんのQOLを重視したケアを行いましょう。

 

  1. 医療者自身の倫理的負担

課題: 看護師や医師が、患者さんや家族の希望に応える中で、倫理的な葛藤や精神的な負担を感じることがあります。

対処法:チーム内で定期的にカンファレンスを行い、意見を共有しサポートし合います。

倫理的な問題が発生した場合は、倫理委員会や専門家に相談します。

医療者自身のメンタルヘルスケアを重視し、必要に応じて心理的サポートを受けます。

場合によっては担当を変えてもらうなどの配慮を求めましょう。

 

  1. 患者さんの尊厳を守るケア

課題: 終末期において、患者さんの尊厳をどのように守るかが重要な課題となります。

対処法:患者さんの価値観や文化的背景を尊重し、個別的なケアを提供します。

患者さんが自分らしく過ごせるよう、環境を整え、意思決定を支援します。

家族とも協力し、患者さんの希望に沿ったケアを行います。

 

これらの課題に対処する際には、患者さんや家族との信頼関係を築き、丁寧なコミュニケーションを通じて最善のケアを提供することが大切です。

 

 

患者さんと家族への効果的なコミュニケーションの方法  

1. 傾聴を重視する

  • 患者さんや家族の感情や考えをしっかりと「聴く」姿勢を持つことが大切です。
  • 言葉だけでなく、表情や仕草からも感情を汲み取る努力をします。
  • オープンクエスチョンを用いて、相手が自由に話せる環境を整えましょう。

2. 感情に寄り添う

  • 患者さんや家族が抱える不安や悲しみに共感し、否定せずに受け止めましょう。
  • 「安心感」を与えるために、穏やかな声のトーンや表情を心がけます。
  • ときには、ころころと言っている内容が変わることもありますが、それは葛藤のサインです。
  • 焦らせることはせずにその時の気持ちとして傾聴しましょう。

3. 分かりやすい説明を心がける

  • 医療用語を避け、患者さんや家族が理解しやすい言葉で説明します。
    そのことによって認識の違いなどのトラブルを防ぐことができます。
  • 治療方針や選択肢について、具体的かつ簡潔に伝えます。
  • 必要に応じて図や資料を活用し、視覚的に理解を助けます。

4. 自己決定を尊重する

  • 患者さんや家族が自ら意思決定できるよう、十分な情報を提供します。
  • 決定の背景にある価値観や想いを理解し、共有することを意識します。

5. 信頼関係を築く

  • 挨拶や笑顔など、基本的な接遇を大切にし、親しみやすい雰囲気を作ります。
  • 一貫性のある対応を心がけ、患者さんや家族に安心感を与えます。

6. 時間を確保する

  • 忙しい中でも、患者さんや家族と話す時間を意識的に設けます。
  • 訪問看護の場合は、必要に応じて訪問時間を延長するなど柔軟に対応します。

7. 自分の価値観を押し付けない

  • 自分の感情や価値観がコミュニケーションに影響しないよう注意します。
  • 相手の価値観や文化的背景を尊重し、柔軟に対応します。

8. 非言語コミュニケーションを活用する

  • 言葉だけでなく、アイコンタクトやうなずきなどの非言語的な表現を活用します。
  • 身振りや表情で、相手に「受け入れている」というメッセージを伝えます。

9. 家族への心理的サポート

  • 家族が抱える負担感や不安を軽減するため、話を聴き、共感を示します。
  • 家族が患者さんのケアに参加できるよう、具体的なアドバイスやサポートを提供します。

10. チームでの連携を意識する

  • 医療チーム内で情報を共有し、一貫した対応を行います。
  • 必要に応じて、ソーシャルワーカーや心理士などの専門職と連携します。

これらの方法を実践することで、患者さんや家族が安心して終末期を過ごせるよう支援することができます。

 

チームアプローチの重要性と実践方法

終末期看護において、患者さんとその家族が抱える身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな課題に対応するためには、多職種が連携してケアを提供する「チームアプローチ」が欠かせません。

患者さん一人ひとりの価値観や希望に寄り添いながら、医師、看護師、ソーシャルワーカー、心理士、栄養士、リハビリ専門職、さらにはボランティアなどが協力し、包括的な支援を行うことが求められます。

このアプローチは、患者さんのQOLを最大限に高めるだけでなく、家族の心理的負担を軽減し、安心感を提供するための重要な基盤となります。

また、チームアプローチを効果的に実践するためには、各職種が専門性を発揮しつつ、共通の目標に向けて情報を共有し、柔軟に役割を調整することが必要です。

特に終末期では、患者さんの状態が急変することも多いため、迅速かつ適切な対応が求められます。

これらを行うことにより、患者さんが「自分らしい最期」を迎えられるよう支援することが可能となります。

チーム医療のイラスト

終末期看護において多職種連携はなぜ必要?

終末期看護における多職種連携は、患者さんとその家族が抱える多様で複雑なニーズに対応し、質の高いケアを提供するために不可欠です。

終末期における多職種連携の必要性

 

多職種連携は、終末期看護において患者さんと家族の多様なニーズに応え、医療の質と安全性を向上させるための重要なアプローチです。各職種が専門性を発揮しながら協力することで、患者さんのQOLを高め、家族の負担を軽減し、地域全体で支えるケアを実現することが可能となりますね。

 

チーム内での役割分担と協力方法

終末期看護において、患者さんとその家族が抱える多様なニーズに対応するためには、チーム内での明確な役割分担と効果的な協力が不可欠です。

 

  1. チーム内での役割分担

終末期ケアチームは、多職種がそれぞれの専門性を活かしながら協力することで、患者さんのQOLを最大限に高めることを目指します。

以下は、主な職種とその役割の概要です。

  • 医師: 患者さんの診断、治療方針の決定、症状管理(特に疼痛や呼吸困難の緩和)を担当します。また、患者さんや家族への説明責任を果たし、治療の選択肢を提示します。
  • 看護師: 患者さんの身体的ケア(清潔保持、栄養管理、服薬管理など)を行い、患者さんや家族の心理的サポートも提供します。患者さんの状態変化を観察し、必要に応じて他職種に情報を共有します。
  • ソーシャルワーカー: 経済的支援や社会資源の活用を提案し、患者さんと家族が安心して療養生活を送れるよう支援します。また、退院後の在宅ケアや施設入所の調整も行います。
  • 心理士・カウンセラー: 患者さんや家族の心理的負担を軽減するためのカウンセリングを提供し、スピリチュアルケアにも対応します。
  • 薬剤師: 症状緩和のための薬剤選択や副作用管理を行い、医師や看護師と連携して適切な薬物療法を提供します。
  • チャプレン(宗教者): 患者さんや家族のスピリチュアルなニーズに応え、安心感を提供します。
  • ボランティア: 患者さんや家族の生活支援や話し相手となり、精神的な負担を軽減します。

 

  1. チーム内での協力方法

多職種が効果的に連携するためには、以下のような協力方法が重要です:

  • 定期的なカンファレンスの実施

チーム全体で患者さんの状態やケア方針を共有するために、定期的なカンファレンスを開催します。

これにより、各職種が共通の目標を持ち、役割を明確にすることができます。

  • 情報共有の徹底

患者さんの状態や家族の希望に関する情報を、電子カルテやミーティングを通じて共有します。

特に急変時には迅速な情報伝達が重要です。

  • 柔軟な役割調整

患者さんの状態やニーズに応じて、各職種が柔軟に役割を調整します。

例えば、心理的サポートが必要な場合には、看護師や心理士が重点的に対応するなどの工夫が求められます。

  • 患者さん・家族を中心としたケア

チーム全体が患者さんと家族の希望を最優先に考え、ケア方針を立案します。

患者さんや家族をケアチームの一員として捉え、意思決定に積極的に参加してもらうことが重要です。

  • 心理的安全性の確保

チーム内で意見を自由に交換できる心理的安全性を確保することで、より良いケア方針を導き出すことができます。

 

  1. チームアプローチの効果

適切な役割分担と協力が実現することで、以下のような効果が期待されます:

  • 患者さんの身体的・精神的苦痛の軽減
  • 家族の心理的負担の軽減と安心感の提供
  • ケアの質と安全性の向上
  • チームメンバー間の信頼関係の強化

 

終末期看護におけるチーム内での役割分担と協力は、患者さんと家族の多様なニーズに応えるための基盤です。

各職種が専門性を発揮しつつ、柔軟に連携することで、患者さんが「自分らしい最期」を迎えられるよう支援することが可能となります。

 

終末期でのトラブル

終末期医療では、患者さん本人や家族、医療従事者間でさまざまなトラブルが発生することがあります。

  •  治療方針に関するトラブル

具体例:  

家族が延命治療を希望する一方で、患者さん本人は緩和ケアを望んでいる。  

家族間で治療方針が一致せず、意見が対立する。  

医師の説明が不十分で、家族が治療内容に納得できない。

 解決方法: 

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を早期に実施し、患者さん本人の意思を明確にする。  

家族全員を交えたカンファレンスを開催し、治療方針を共有・調整する。  

医療者が治療の選択肢やリスクを丁寧に説明し、インフォームドコンセントを徹底する。

 

  • 家族とのコミュニケーション不足

具体例:  

   家族が患者さんの状態や治療方針を十分に理解していない。  

   家族が医療者に対して不信感を抱き、トラブルに発展する。  

   家族間で介護の負担を巡り意見が対立する。

解決方法:  

定期的に家族へ患者さんの状態や治療方針を説明し、質問や不安に対応する。  

家族間の意見の違いを調整するため、ソーシャルワーカーや心理士を交えた話し合いを行う。

家族の心理的負担を軽減するため、カウンセリングや地域資源の活用を提案する。

 

  • 患者さん本人の意思が不明確な場合

具体例:  

患者さんが意思表示できない状態になり、家族や医療者が対応に迷う。  

患者さんの希望が事前に確認されておらず、治療方針が決まらない。

解決方法:   

事前にACPを実施し、患者さんの希望を記録しておく。  

患者さんの過去の価値観や生活スタイルを家族から聞き取り、治療方針を決定する。  

医療チーム内で患者さんの利益を最優先に考えた方針を議論し、家族に提案する。

 

  • 経済的負担に関するトラブル

具体例:   

家族が医療費や介護費用の負担に苦しみ、治療方針に影響を与える。   

経済的理由で在宅ケアや施設入所が困難になる。

解決方法:  

ソーシャルワーカーが介入し、医療費助成制度や福祉サービスを案内する。  

地域包括ケアシステムを活用し、在宅医療や訪問看護の支援を調整する。   

家族に対して費用負担の見通しを説明し、現実的な選択肢を提示する。

 

  • 緩和ケアに対する理解不足

具体例:  

家族が緩和ケアを「治療の放棄」と誤解し、積極的治療を求める。  

緩和ケアの目的や内容が患者さんや家族に十分に伝わっていない。 

解決方法:  

緩和ケアの目的(苦痛の緩和とQOLの向上)を丁寧に説明する。  

緩和ケアの具体的な内容や効果を事例を交えて家族に伝える。  

家族が緩和ケアに納得できるよう、医療者が継続的にサポートする。

 

  • 急変時の対応に関するトラブル

具体例:  

患者さんの急変時に家族が蘇生を希望し、医療者と意見が対立する。  

急変時の対応方針が事前に決まっておらず、混乱が生じる。

解決方法:  

急変時の対応方針(DNAR指示など)を事前に家族と共有しておく。  

急変時の対応について、医療チーム内で統一した方針を持つ。  

家族が感情的になった場合でも、医療者が冷静に対応し、患者さんの利益を最優先に考える。

 

  • 精神的・心理的負担

具体例:  

家族が患者さんの死を受け入れられず、医療者に不満をぶつける。  

患者さん本人が「迷惑をかけている」と感じ、精神的苦痛を抱える。

解決方法:  

家族や患者さんに対して心理士やカウンセラーによるサポートを提供する。  

患者さんのスピリチュアルケアを行い、安心感を与える。  

家族に対してグリーフケアを行い、死別後の心理的負担を軽減する。

終末期医療では、患者さん本人と家族の希望を尊重しつつ、医療者が適切に介入することでトラブルを最小限に抑えることが可能です。事前の準備と継続的なコミュニケーションが鍵となります。

 

実際に私が経験した終末期トラブル!

  • 宗教によるトラブル
    患者さんが急変で亡くなった際、エンゼルケアののち、病院で用意した浴衣を着せたところ、宗教の関係で着る衣服に条件があったことをすべての処置が終わってから家族から聞く。
    もう一度浴衣を脱がせ、家族が持参した宗教の服を着せる。
    入院時に宗教やお祈りなどがあるかは聞いていたが、死亡時の衣服の確認をしていなかった。
  • 転院による認識の相違トラブル
    終末期に勤務していた際、急性期病院から転院してきた患者さんの家族ににICで当院では積極的な延命治療はいたしませんと医師が伝えると、「延命してもらえると聞いて転院してきたのに」と、家族との認識の相違が起こっていた。
    家族に現在の状況を説明し、延命処置を行わない方向で話がついたが、家族が強く延命を望む場合には、再び元の病院へ転院する可能性があった。

なかなか死について、家族とも患者さん本人とも話しにくいですが具体的に話合う必要があるな…と思った事例でした。

終末期の最期の時を迎えようとしている患者と家族のイラスト

最新の研究とガイドラインの紹介

終末期医療は、患者さんが人生の最終段階を迎える際に、身体的、精神的、社会的、そしてスピリチュアルな苦痛を和らげることを目的とした重要な医療分野です。

近年、医療技術や社会構造の変化に伴い、終末期ケアのあり方も進化しています。

特に、患者さんのQOLを最大限に尊重しながら、医療者、患者さん、家族が協働して最適なケアを提供するための新しい研究やガイドラインが注目されています。

最新の研究成果やガイドラインを基に、終末期医療における課題や解決策、そして実践に役立つ知見を紹介しますね。

 

終末期看護に関する最新の研究成果

終末期看護は、患者さんとその家族が人生の最終段階をより良い形で迎えられるよう支援する重要な分野です。

近年の研究では、患者さんのQOLの向上、家族の心理的負担軽減、多職種連携の強化などに焦点を当てた成果が報告されています。

以下に、最新の研究成果をいくつか紹介します。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の効果

研究内容: 

ACP(事前ケア計画)が患者さんと家族の意思決定を支援し、医療費削減や患者さんのQOL向上に寄与することが示されています。

特に、がん患者さんを対象としたクラスター無作為化試験では、ACPを通じて家族会議を実施することで、患者さんの満足度が向上し、医療費が削減されたと報告されています。

実践への影響: 

ACPを早期に導入することで、患者さんの希望に沿ったケアが提供されやすくなり、家族間の意見対立も軽減される可能性があります。

緩和ケアの早期導入と死の質の向上

研究内容:

 緩和ケアを早期に導入することで、進行がん患者さんの身体的・精神的苦痛が軽減され、死の質(Quality of Death)が向上することが確認されています。また、緩和ケア病棟でのリハビリテーションが患者さんの身体機能維持や心理的安定に寄与するとの報告もあります。

実践への影響:

 緩和ケアの早期介入を推進することで、患者さんがより自分らしい最期を迎えられる環境を整えることが可能です。

家族の心理的負担とグリーフケア

研究内容: 

終末期ケアにおける家族の心理的負担や悲嘆(グリーフ)に関する研究では、家族が患者さんの死を受け入れるプロセスを支援する介入が有効であることが示されています。特に、J-HOPE4研究では、遺族の抑うつや複雑性悲嘆を軽減するためのケアの質評価が行われています。

実践への影響: 

家族への心理的サポートを強化し、グリーフケアを体系的に提供することで、遺族の精神的健康を守ることが期待されます。

 

呼吸困難や疼痛管理に関するガイドライン

研究内容:

 終末期患者さんの呼吸困難や疼痛管理に関する最新のガイドラインでは、抗コリン薬やオピオイドの適切な使用が推奨されています。これにより、患者さんの身体的苦痛を効果的に緩和する方法が明確化されています。

実践への影響:

 医療者が最新のガイドラインに基づいたケアを提供することで、患者さんの苦痛を最小限に抑えることが可能です。

 

多職種連携によるケアの質向上

研究内容: 

多職種連携が終末期ケアの質を向上させることが報告されています。特に、定期的なカンファレンスや情報共有を通じて、患者さんと家族のニーズに応じた包括的なケアが実現されています。

実践への影響:

 医師、看護師、ソーシャルワーカー、心理士などが連携することで、患者さん中心のケアがより効果的に提供されます。

 

テクノロジーの活用

研究内容: 

自然言語処理や機械学習を活用した緩和ケアの質評価が進んでおり、患者さんの症状やニーズをより正確に把握するためのツールが開発されています。

実践への影響:

 ICT(情報通信技術)の活用により、ケアの効率化や質の向上が期待されています。

これらの研究成果は、終末期看護の実践において重要な指針を提供しています。最新のエビデンスを基にしたケアを実践することで、患者さんと家族がより良い最期を迎えられるよう支援することが可能です。

 

ガイドラインの実践への応用方法

終末期医療や看護に関するガイドラインは、患者さんとその家族が人生の最終段階をより良い形で迎えられるよう支援するための重要な指針です。

これらのガイドラインを実際の臨床現場で効果的に活用するためには、以下のような具体的な応用方法が挙げられます。

 

  1. ガイドラインの理解と教育

スタッフ教育の実施: ガイドラインの内容を医療従事者全員が理解するために、定期的な研修や勉強会を開催します。特に、意思決定支援や緩和ケアの具体的な方法についてのトレーニングが重要です。

多職種連携の強化: 医師、看護師、ソーシャルワーカー、心理士などがガイドラインを共通の基盤として活用できるよう、職種間での情報共有を徹底します。

 

  1. アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の活用

患者さん・家族との対話の促進: ガイドラインに基づき、患者さんや家族と繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思や価値観を明確にします

。これにより、治療方針やケア内容を患者さんの希望に沿った形で決定できます。

意思決定支援の実践: ガイドラインが示すプロセスに従い、患者さんや家族が治療やケアの選択肢を理解し、納得した上で意思決定できるよう支援します。

 

  1. 全人的苦痛緩和の実践

身体的・心理的ケアの提供: ガイドラインに基づき、疼痛管理や呼吸困難の緩和など、患者さんの身体的苦痛を軽減するための具体的な介入を行います。

また、心理的サポートやスピリチュアルケアを通じて、患者さんの精神的な安定を図ります。

緩和ケアの早期導入: ガイドラインが推奨するように、緩和ケアを早期に導入することで、患者さんのQOLを向上させます。

 

  1. 家族へのサポートとグリーフケア

家族の心理的負担軽減: ガイドラインに基づき、家族が患者さんの最期を受け入れるプロセスを支援します。具体的には、家族会議の実施や心理士の介入を活用します。

予期悲嘆への対応: 家族が患者さんの死を予期する段階から、感情表出を促し、複雑性悲嘆に陥らないようサポートします。

  1. 組織体制の整備

定期的なカンファレンスの実施: ガイドラインに基づき、終末期患者さんのケアに関する情報共有や方針決定を行う場を設けます。

これにより、チーム全体で一貫したケアを提供できます。

倫理委員会の活用: 難しい意思決定が必要な場合には、ガイドラインが推奨する倫理委員会を活用し、専門的な助言を得ます。

 

  1. 地域包括ケアシステムとの連携

在宅ケアの推進: ガイドラインを活用し、患者さんが住み慣れた環境で最期を迎えられるよう、地域包括ケアシステムと連携します。訪問看護や在宅緩和ケアの提供を強化します。

地域資源の活用: 地域の医療・介護資源を活用し、患者さんと家族に包括的な支援を提供します。

 

  1. 実践の評価と改善

ケアの質のモニタリング: ガイドラインに基づくケアが適切に実施されているかを定期的に評価し、必要に応じて改善を行います。

患者さん・家族のフィードバック収集: ケアの満足度や改善点を把握するために、患者さんや家族からのフィードバックを積極的に収集します。

 

これらの応用方法を通じて、ガイドラインを現場で効果的に活用し、患者さんと家族がその人らしい最期を迎えられるよう支援することが可能です。

終末期を安心に過ごすために…イラスト

終末期看護の在り方とは?患者さんと家族に寄り添うケアの実践

終末期看護は、患者さんが人生の最終段階をその人らしく過ごせるよう支援する重要な役割を担っています。

このケアの中心には、患者さんの身体的・精神的苦痛を和らげること、そして患者さんや家族の価値観や希望を尊重する姿勢があります。

看護師は、患者さんの「自分らしい最期」を実現するために、症状緩和や心理的サポートを行いながら、家族とも密接に連携します。

また、多職種チームとの協力やACP(アドバンス・ケア・プランニング)の活用を通じて、患者さんと家族が納得できるケアを提供することが求められます。

終末期看護は単なる医療行為ではなく、患者さんと家族の人生に深く関わる「人間らしさ」を支えるケアであり、その実践には高い専門性と共感力が必要です。

「自分らしい最期」を迎えるためにも、看護計画を立案し順序良く患者さん、家族と関われるようにしましょう!

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