
皆さんは“ディストラクション”と“プレパレーション”を知っていますか?
予防接種の時期になると、注射が苦手な子どもたちの「怖い!」という声がクリニックに響き渡ります。
予防接種は子どもの健康を守るために欠かせないものですが、注射が苦手な子どもたちにとっては一大イベントです。
子どもが抱く不安を和らげ、少しでも安心して予防接種を終えるためには、“ディストラクション”と“プレパレーション”が鍵になります。
今回は、HAAB Medical Groupの小児科医長で、HAABこどもクリニック院長の田中嵩人が注射嫌いな子どもを安心させるためにとても大切な “ディストラクション”と“プレパレーション”をご紹介します!
最後には予防接種時の痛みを軽減させる㊙テクニックもお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください!
予防接種は一般的に生後2か月から始まりますが、ブレパレーションが有効なのは3歳以降です。
それ以前の幼児や乳児にはディストラクションという技法を用いて予防接種を行うことで、不安を和らげて予防接種を行うことができます。
① ディストラクション
ディストラクションは、一言でいえば注射から気をそらす(紛らわす)ことです。
赤ちゃんは予防接種をする際、強い痛みを経験すると、以降の予防接種で強い拒否反応を示すようになります。
さらに、乳児の「痛み」には“恐怖”や“怒り”といった情緒的要素が関与していて、“恐怖”や“怒り”を覚えることが痛み感覚を増強させることもわかっています。
そのため、予防接種時に子どもの五感を刺激して気を紛らわす(ディストラクション)ことが、乳児から幼児まで幅広い年齢の対象に効果的です。
例えば、五感を刺激するおもちゃやタブレットなどで気をそらすことが効果的です。
おもちゃなどがない場合には、乳児や幼児にとって最も安心できるパパやママに,子どもの顔を注射刺入部位からそらせた状態で抱きかかえてもらったり,医療者が子どもに関係ないことを話しかけながら予防接種を行うことで痛みを和らげることができるのです。
② プレパレーション
プレパレーションは、その子どもの年齢にあった言葉や道具を使ってこれから臨む事柄の手順や感覚をわかりやすく説明し理解させることで、子どもの心理的な混乱を緩和することです。
効果的なプレパレーションを行うことにより、これから臨む注射への心の準備を整えるだけでなく、「自分には困難な状況を乗り越える力があるんだ」と自信を与えることにもつながります。
つまり、適切なプレパレーションを行うと、子どもは「それくらいならできそうだ」と思って予防接種を受け入れる準備ができます。プレ
パレーションを行うにあたっては,
①子どもに嘘のない情報を伝える
②伝えっぱなしではなく子どもの反応の表出を後押しする
③信頼関係を築く
の3点が重要です。
よく使われるツールは絵本やパンフレットで、注射の手順や本人の体験が時系列でわかる情報と、『注射の針が刺さるときは“ちくっ”とするよ~』『注射のおくすりをからだの中に入れるときには“ぐう~”っと押される感じがするよ』『最後に針を抜くときにね,またちょっと“びりっ”とするよ』といった感覚的な情報を含むようにすると効果的です。
一般的に,プレパレーションが可能な年齢は3歳以降とされています。
それは、3歳頃になると子どもは感情表現や会話能力が上がり、説明を聞くばかりでなく自分の感情も表出できるようになるためです。
そのため、「今日は注射ないよ」と言って連れて行くのは逆効果です。
突然注射が始まれば、子どもは大人を信じられなくなり、次回の接種がさらに困難になることもあります。
代わりに、「ちょっとチクっとするけど、すぐ終わるよ」と簡潔で正直な説明をしましょう。
大人が落ち着いて伝えることで、子どもも安心感を得やすくなります。
また、予防接種が終わったら、「よく頑張ったね!」「えらかったね!」と思い切り褒めて達成感をあたえてあげましょう。
たとえ泣いてしまっても問題ありません。
「痛かったね。でもよく耐えたね」と寄り添う言葉が、次回への勇気につながります。
また、ご褒美としてシールやお菓子を用意するのも効果的です。
予防接種時の痛みを軽減させる㊙テクニック
最後に、予防接種時の痛みを軽減させる㊙テクニックを2つご紹介します。
1つ目は、ワクチンの温度と体温の差により痛みが生じることがあるため、ワクチンは冷蔵庫から取り出したら10分程度室温に静置しておくことです。
2つ目は、複数のワクチンを同時接種する場合は痛みの少ないものから始めることです。MRワクチンやおたふくかぜワクチンは比較的痛みが少なく、肺炎球菌ワクチンや四種混合ワクチンは痛みが強いといわれています。
まとめ
注射嫌いな子どもを安心させるたった2つのことは、ディストラクションとプレパレーションです。
ディストラクションは、注射から気をそらし“恐怖”や“怒り”を紛らわせることで痛みを軽減させる方法です。
プレパレーションは言葉や道具を使って注射の手順や感覚をわかりやすく説明し理解させることで、子どもの心の準備をさせて恐怖を和らげる方法です。
注射が苦手なのは、大人も子どもも同じ。
でも、適切なサポートをすれば、怖がる気持ちを少しずつ軽くしていくことができます。
ぜひこれらのコツを試して、子どもたちの予防接種を安心で前向きな体験にしてあげてください。